新しい携帯電話は、これまでより多くの周波数帯域と作動モードを統合し、それと同時に電力消費を最小限に抑えることを目指して開発されています。これは、確実に携帯電話が世界中のあらゆる基準を満たすようにするための唯一の方法です。2008年の中頃には、11の周波数帯域がW-CDMAシステムに使用され、そのうちの5つの周波数帯域はGSMにも使用されました(表1)。
表1: 携帯電話に現在使用されている周波数帯域
帯域 | 送信周波数 [MHz] | 受信周波数 [MHz] | 送信周波数と受信周波数 の分離[MHz] |
I | 1920 – 1980 | 2110 – 2170 | 190 |
II | 1850 – 1910 | 1930 – 1990 | 80 |
III | 1710 – 1785 | 1805 – 1880 | 95 |
IV | 1710 – 1755 | 2110 – 2155 | 400 |
V | 824 – 849 | 869 – 894 | 45 |
VI | 830 – 840 | 875 – 885 | 45 |
VII | 2500 – 2570 | 2620 – 2690 | 120 |
VIII | 880 – 915 | 925 – 960 | 45 |
IX | 1749.9 – 1784.9 | 1844.9 – 1879.9 | 95 |
X | 1710 – 1770 | 2110 – 2170 | 400 |
XI | 1427.9 – 1452.9 | 1475.9 – 1500.9 | 48 |
2008年8月現在
表に挙げた周波数帯域は、ヨーロッパ、アジア、アメリカのさまざまな地域で使用されます。帯域の組み合わせによって、これらの全地域での携帯電話の使用が可能になります。
これらの帯域と作動モードの組み合わせには、複雑なRFフロントエンドが必要です。それは、各周波数帯域に固有のハードウェアが必要であるからです。これが意味することは、RFフロントエンドの電力消費が増えるにつれて、コンポーネントの数および回路基板上のスペースの必要性が増すということです。
同時に、カメラ、MP3プレーヤー、ラジオやテレビチューナーなど、ますます多くの追加機能が携帯電話に装備されるようになっています。携帯電話の小型化が進むにつれて、組み込まれるアンテナもコンパクトにならなければなりません。
電話のユーザーがアンテナの性能を下げる
現在、共振回路として作用する平面アンテナは、主にこの目的に使用されています。その欠点は、電話のユーザーとの相互作用などの外部効果に対して、その近接場が過剰な感度で反応することです。これによってアンテナインピーダンスが大幅に変化し、それと同時に送信と受信の質に大きな影響を与えます。折り畳み式携帯電話やスライド式携帯電話、可動式のキーパッドやディスプレイなどのさまざまな特徴は、アンテナの性能をさらに悪化させます。さまざまな共通の負荷もそのインピーダンスに影響を及ぼすからです。
図1は、ユーザーとの相互作用に対するアンテナの入力インピーダンスの反応を示しています。アンテナの放射範囲にユーザーの手があることにより共振周波数が減少して、そのためにアンテナの性能が下がります。
| | 図1: アンテナへの人体の影響 |
| | アンテナの近接場の物体が共振周波数の減少をもたらし、そのためにアンテナの性能が下がります。 |
|
そのため、最悪の状況であっても3.5:1の電圧定在波比 (VSWR) を超えない入力インピーダンスで、最新式のアンテナが開発されています。これは、約1.6 dBまたはアンテナでの反射電力の30パーセントの損失に相当します。多数のデュプレクサーおよび付随するスイッチも考慮される場合は、電力はアンテナを含むフロントエンド全体で消費され、そのためにバッテリーの残り寿命が大幅に短くなります。
固定式および調整式の整合回路
RFフロントエンドとアンテナ間で以前に使用されていた固定式の整合回路は、正確に定義されたアンテナインピーダンスの整合を許可するだけです。これらは、アンテナインピーダンスの小さな変化を補正するためにも使用されます。
加えて、固定式の整合は、アンテナインピーダンスのアクティブ抵抗の4倍の変化や、3~50Ωのリアクタンスの増加などの大きなインピーダンスの変化を補正することができません。
調整式の整合回路は、この問題のソリューションとなっています。これらは、変更可能なインピーダンス挙動の重要な利点を備えています。さらに、フィードバック制御器が実装されている場合は、アンテナのあらゆるインピーダンスの変化に対して、システム全体が適応して反応することができます。このような適応型調整ユニットは、4つの機能ユニットで構成されています (図2)。
| | 図2: 適応型整合回路の機能ユニット |
 | | 適応型整合回路は、アンテナインピーダンスの連続修正を可能にします。 |
|
機能原理:検出器は初めに、送信されたRF信号を測定します。アルゴリズムがその結果をリアルタイムで、アンテナの適応型整合回路で変更が必要とされるかどうか、また、どの変更が必要とされるかを見積もるために利用します。続いて、その情報をDC/DCコントローラーに送ります。このドライバーは、アクチュエーター (バラクター) で要求される電圧を設定し、バラクターのキャパシタンスを変化させることによって行われるインピーダンス整合の変更を強制します。このプロセスは、望ましいインピーダンス (例えば50 Ω) に達するまで段階的に繰り返されます。このプロセスに必要な4つのすべての機能ユニットを、1つのRFモジュールに統合することができます。
現在使用されているバラクターは、4つの異なるテクノロジーに基づいています。すなわち、BST (チタン酸バリウムストロンチウム)、CMOS、半導体ベースのバラクター、そしてRF-MEMSです。
テクノロジーの利点
RF-MEMSには、競合するバラクターのテクノロジーに勝る数多くの利点があります。特に直線性と電力安定性、また、広い調整範囲も、このテクノロジーに非常に広い、実際にほとんど全世界への適用範囲を与えています。
EPCOSは、静電的に変更可能な容量性RF-MEMSスイッチを使用しています (図3)。DC電圧の使用は可動板、つまり上部電極が「開」と「閉」の状態間で切り替わる原因になります。閉じた状態では、上部電極が誘電体層と接触して、下部電極と一緒に数ピコファラドのキャパシタンスを形成します。反対に、開いた状態では、キャパシタンスは非常に小さく、数フェムトファラドしかありません。そのため、RF-MEMSスイッチは「高キャパシタンス」と「低キャパシタンス」の状態間で切り替えます。この2つの状態の関係は、オン/オフ比として知られています。
| 図3:RF-MEMSの作動モード |

上部電極と下部電極間の間隔をさまざまに設定することができ、それによってキャパシタンスとインピーダンスが変化します。 |
|
1つの容量性RF-MEMSスイッチには、1 GHzで最大250のクオリティQがあります (図4)。この値は、明らかに他のテクノロジーの結果を3~5倍上回っています。
| | 図4: RF-MEMSのQ曲線 |
 | | 最大値が250であり、RF-MEMSのクオリティは、比較できる他のテクノロジーを3~5倍上回っています。 |
|
切替え可能なキャパシタンスアレイを実装するために、さまざまなスイッチが並列に接続されています(図5参照)。原則として、スイッチングプロセスはバイナリコード化されています。5つのスイッチの使用により32のキャパシタンス値を許可します。個別のMEMSエレメントの大きなターンオン/ターンオフ比により、大きな調整比も得られます。
| 図 5: RF-MEMSアレイの原理 |
 必要なキャパシタンスは、バイナリコード化された並列回路によって設定されます。 |
|
全体の調整比は約10:1です。このような高い値は、BSTや半導体ベースのバラクター (例えば階段状ドーピングプロファイルを持つコンポーネント) では達成できません。
テストに成功した最初のプロトタイプ
アンテナの適応型整合回路の機能性を調べるために、デモンストレーターが使用されました (図6)。これは、図2に示されている単一モジュール内に統合された機能ユニットで構成されています。
| | 図6: RF-MEMSデモンストレーター |
 | | 完成した適応型整合回路は単一モジュールに実装されました。 |
|
単純に直列接続されたLC整合回路は、アンテナインピーダンスの変化の複雑な成分を補正します。2進加重の5ビットRF-MEMSアレイはこの目的に使用されます。高電圧ドライバーはMEMSバイアス電圧を生成して、不整合情報が整合入力インピーダンスのフェーズから派生します。フィードバックループは、整合入力インピーダンスを望ましい値にします。例で示したように、制御アルゴリズムはハードウェアを使用して実行されています。このアルゴリズムは、柔軟性を向上させるためにマイクロコントローラーにプログラムすることができます。
図7は、ユーザーが原因となっている平面逆Fアンテナ (PIFA) の測定された変化を示しています。
| | 図7: アンテナのインピーダンス変化 |
 | | さまざまなユーザーの相互作用が、理想値から派生するアンテナインピーダンス値を生成します。 |
|
適切なアンテナの選択により、入力インピーダンスの複雑な (反応性) 成分のみを変更することができます。それにより、実際の (抵抗性) 成分はほぼ一定に保たれます。ユーザーとの相互作用は、アンテナの特性をより誘導的にして、それにより共振周波数が変化します。約10:1の調整比を持つ、直列接続された容量性RF-MEMSアレイは、この非常に誘導性の高い応答を補正し、アンテナインピーダンスを修正することができます。
図8は、修正されたアンテナインピーダンスを示しています (青)。適応型アンテナ整合なしでは、インピーダンスの誘導性が非常に高くなります (赤)。この図では、不整合アンテナのインピーダンスが50 Ωと50 * (1+j) Ωの間で異なっています。これは、それぞれ1:1または2.6:1のVSWRに相当します。この後者の値では、電力の20パーセントがすでに反射されて、熱に変換されています。この電力消費は、バッテリーの寿命を大幅に短くします。
| | 図8:RF-MEMSによるインピーダンス整合 |
 | | 調整式の整合回路の使用によって、アンテナのインピーダンスが最適な範囲に維持されます (青のライン)。 |
|
適応型アンテナ整合ユニットの使用は、約1.2:1の値に対してVSWRを均一にします。これは、約1パーセントの反射電力に相当します。
表2は実測性能をまとめたものです。適応型チューナーの総電力消費は、現在は約4.4 mWですが、将来は1 mW未満の値まで下げることができます。
表2: 実装されるRF-MEMSモジュールの性能
| パラメーター | 実装値 |
| 電力消費 | 4.4 mW |
| 挿入損失 | 0.5 dB |
| 高調波 (H2、H3) | <91 dBc |
| 相互変調 (IM3) | <117 dBm |
| スプリアス発射 | <-87.5 dBm |
| 作動時のスイッチング時間 (ホットスイッチング) | >75 * 106サイクル |
| コールドスイッチング (GSM) | >30億サイクル |
次のステップは、今後のアンテナ整合モジュールのためのプラットフォームを設計することです。その最初のバージョンはマイクロコントローラーによって制御され、それによって確実に、適応型アンテナ整合モジュールが標準の携帯電話で自立的に作動するようになります。より大きな調整エリアを得られ、異なる種類のアンテナをより多く作動できるように、調整回路はもっと複雑になります。電力消費とスペースの必要性も最小限に抑えられるようになります。
著者:
Dr. Edgar Schmidhammer (R&Dバイスプレジデント、SAW移動通信)
Maurice de Jongh (シニアサイエンティスト、製品開発、SAW移動通信)